遠くから、遠くまで、そして風通しよく|サンガコラム「深慮遠望」 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2022年06月11日

Category サンガコラム

遠くから、遠くまで、そして風通しよく

深慮遠望VOL.10

 日常の小さな事柄にも考えるべき多くの問題が含まれている。たとえば、公園の片隅にゴミの不法投棄が繰り返されるからというので、それを防止するため防犯カメラを設置しようという案が町会の会議に出されるとしよう。勝手にゴミを捨てるような不埒な輩を突き止めるために、あるいは不法投棄を思いとどまらせるために、カメラ設置は有効である。だが同時に、そのカメラは不心得者以外の多くの人々の行動を監視しうるものでもある。つまり、ひとびとに法を守らせるためのカメラが、ひとびとの行動の自由を抑制する監視カメラともなるわけである。

 カメラ設置の利害得失を慎重に見極めねばならないから、この問題は簡単には解決できない。しかし、設置するかどうかは速やかに決定しなければならない。そこで、決定のための考慮すべき点を確認しておこう。

  • ①これまでの歴史で、カメラが設置されることによってどんなことが生じてきたかを知ること。
  • ②これからの技術の進歩で、カメラ設置がどのような事態をもたらすかを予想すること。
  • ③なされた決定の不具合が明らかになったときには、この決定を再度考え直すこと。
  • ④以上の検討過程を記録し、公開できるようにしておくこと。

 人間は愚かであるからなかなか歴史から学ぶことができない。受験のために暗記した歴史知識など役に立たない。自らの身近な問題を具体的に考える際にこそ、これまでの歴史が役に立つ。こうしてわれわれは歴史に耳を傾けることを学ぶ。これが問題を遠くから見るということである。また、歴史を踏まえた上でこれからの展開を予想することが、問題を遠くまで見るということである。そして、上記の③、④が決定の風通しよさ、すなわち柔軟性と公開性である。

 

 

 

池上哲司(大谷大学名誉教授)

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