2023年07月01日
Category サンガコラム終活
石井哲代さん、会ったことはない人。本を読んで知った、本のタイトル、『102歳、一人暮らし。』。生まれは広島県府中市。26歳で結婚して尾道市へ。仕事は小学校の先生。ご主人も小学校の先生。83歳でご主人を見送り、以後一人暮らし、子どもさんはいない。
本は中国新聞の女性記者2名が、哲代さんの人柄、暮らしぶり、思考回路に惚れ、取材を繰り返しているうちに生まれた。哲代さんの顔がやわらか、仕草もやわらか、言葉もやわらか。このお年だと日本では99%の人がなんらかの老人施設のお世話になっている。そういうことが可能になった時代とも言えるし、家族も助かるのだ。少し前まで哲代さん、スズキのシニアカーで田舎道を走っていた、お米も作っていたというからおどろきもものきさんしょのき。畑仕事が大好きで草取りは名人級とご本人。座右の銘は「さびない鍬でありたい」。
どうしてここまで元気に一人暮らしができるのだろう。読みやすいし、ベストセラーにもなってしまっているので手にして読んでもらうが一番だが、いくつか無断で紹介する。
一つは一人で食べてても「いただきます」「ごちそうさま」とお辞儀する。ミソ汁を愛する。秘訣があって必ずいりこを入れる。頭は取っていっしょに食べる。畑の野菜を入れる。ご飯と漬け物とミソ汁が朝ご飯。ご飯は二日に一度炊く。一日に一合。一食に二膳食べる。長生きレシピに「ばら寿司」「イリコとジャガイモのきんぴら」がある。質素で美味しそう。毎日柔軟体操する、とある。立ったまま手の掌を畳につける。月に一回、浄土真宗本願寺派のお寺の婦人会の例会で親鸞さんにあいさつする。心が静まるそうだ。ご主人にお浄土で会えると信じる。「しわが増えてしもうたから、気付いてもらえんで素通りされたらどうしよう」と笑う。
人生、誰もが肯定しづらいことに出会う。「苦労のない人生はつまらんよ」と哲代さん。ご主人は跡継ぎの長男。子宝に恵まれなかったので家を出ることも考えた哲代さんにご主人は言った。「子どものことは気に病まんでもええ」。その言葉に哲代さんは支えられた。
徳永 進 (医師)
1948年鳥取県生まれ。京都大学医学部卒業。鳥取赤十字病院内科部長を経て、01年、鳥取市内にホスピスケアを行う「野の花診療所」を開設。82年『死の中の笑み』で講談社ノンフィクション賞、92年、地域医療への貢献を認められ第1回若月賞を受賞。著書に、『老いるもよし』『死の文化を豊かに』『「いのち」の現場でとまどう』『看取るあなたへ』(共著)など多数。