2024年11月13日
Category サンガコラム
「このほん、ヘン」。5歳の娘が図書館から借りて来た一冊の絵本を持って来た。その絵本は、二人の姉妹が大きくなったらなんになる?キャビンアテンダント?お医者さん?それともバレリーナ?――と空想し、ラストは「ううん、やっぱりおよめさんになりたいわ」「そうね、およめさんがいちばんよね」というものだった。さすがに時代錯誤が過ぎるのではないかと驚き、見れば1990年発刊とあった。古い本なら仕方ないと納得していると、「ね、ヘンでしょ?」と娘が聞く。私は答えに困ってしまった。
正直、「嫁」という言葉も役割も大嫌いだ。けれど、「嫁」になりたい人だっている。それをヘンだと言ってしまっていいのか。「ヘンじゃないよ。そういう人もいるよ」と返した。けれど、「ううん、ヘン」と娘は引かない。「人それぞれでしょ」「ちがう!ママもヘン!」「どうしてヘンなの?」「およめさんはしごとじゃないもん!」。私は黙ってしまった。娘にとって、およめさんになりたいとかなりたくないではなく、あらゆる仕事の中におよめさんが紛れ込んでいることがヘンだったのだ。時代の違いや多様性うんぬんで片付けてはいけない。娘が正しいと思った。「そうだね、ごめんね。このほんはヘンだね」と言うと、娘はにっこりと笑った。娘が高潔な女性に見えた。いま感じた「ヘン」をこれからも忘れないでほしい。
堀江 彩木
諦聴寺坊守
ねじめ彩木のペンネームにて、数々のテレビドラマの脚本を手掛ける